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おかえり
――真琴が帰ってきた――
長いようで短い眠りから覚めた動物たちも、また綺麗な空気を吸うこの素晴らしい季節、春に――。
それはまるで、少し遅れた春風の贈り物のように。
男は少年のように涙を流し、少女はそんな男を「泣いてやんの〜!」と言い馬鹿にしながら大粒の涙を流し――。
――真琴が帰ってきた――
桜が舞う…舞う。
そのワルツは風と言う名のメロディーを奏で、このものみの丘に響く。
さわさわ…さわさわ…。
草が詠う。
風という曲の元で。
この春に照らされた、ちっぽけな二人のために…。
――ぎゅっと、抱きしめた――
おかえり。
簡単な一言がでなかった。
――ただいま。
少女が小さく呟く。
暖かい温もり。
太陽、風、桜。
今は、そんな少女をただ抱きしめていた。
行こう。
少女がそう言って手を取った。
――いや、もう少しここに居たい――
ちょっと驚いた顔になる少女。
しかしすぐ笑顔で。
――そうね――
温もりを、抱きしめた。
いつだっただろうか。
二人が出会ったのは…。
いつだっただろうか。
あの雪景色を一緒に見たのは。
…いつだっただろうか。
二人が離れ離れになってしまったのは…。
雪がちらとらと降っていた。
あの日の夕方。
君の涙を見た、あの青空。
冷たかった風。
それでも暖かい場所を目指して歩いたあの道。
ありがとう。
名も知らない天使。
貴女が最後に一瞬見せた、その笑顔を忘れない。
――さあ、行こう――
今度はこちらから手を差し出し。
――うん――
春風が届けた贈り物。
冬が届けた、春と言う名の贈り物。
――ありがとう。
――真琴が帰ってきた――
カチャ…。
帰るべき場所のドアを開けて…。
「ただいま」
驚き目を丸くする、仲のいい親子の優しい顔を見て。
ぎゅ…。
何もいわないで、ただ真琴を抱きしめる…。
恥ずかしがり屋の彼に抱かれ。
涙なんか、我慢できるわけなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
大声で泣いた…。
「真琴…まことぉ…!!!」
ひねくれものの彼も、涙を流し。
――やっぱり、かなわないな――
男は、少女の頭にひょいっと跳びのる。
「あ、ねこさん!」
涙目で呟く、青髪の少女。
真琴を抱きしめていた彼は、その声で顔を上げて。
――おかえり。ぴろもな――
そう言って、その小さな頭を撫でた…。
さあ、春がきた。
雪は溶け、また全てがはじまるこの春が。
――春が来て、ずっと春だったらいいのに――
ううん。
今は…。
これからもまた、君と歩んでいきたい。
――この輝く季節を――
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