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物語の分岐点は日常と違う所から始まる。
いつもと少し違う、そう感じたら、それは新しい物語の始まりかもしれない。
某日、昼休み、祐一は屋上へと通じる階段の踊り場へと向かっていた。
いつも通り、舞と佐祐理と食事を摂るために…
しかし、祐一が其処で見た光景はビニールシートとその上に座っている舞と重箱のみ。
佐祐理の姿が見当たらない。
祐一は不思議がって舞に尋ねた。
「舞、佐祐理さんは?」
「…日直で遅くなるから先に食べてて、って言ってた」
舞が少し間を開けて答えた。
先に食べてて、そう言われた筈の舞だが、未だ箸すら握っていない。
その事を察した祐一は舞が佐祐理を待っている事に気付いた。
舞の性格上、全員揃ってから食べ始めたいと言う願望があるのだろう。
「佐祐理さんが来るの待ってたら、食べてる途中に昼が終わらないか?」
「……」
舞は無言で座っている。
祐一の問いに返答する気が起きていないようだ。
祐一はやれやれ、と言った感じで舞の隣に腰を下ろした。
「じゃぁ、俺も…」
待つか、そう祐一が言おうとした矢先に祐一は舞が玉子焼きを好きだった事に気付いた。
そして舞に玉子焼きがほとんど食べられてしまっていた日常に。
「やっぱり一口貰おう」
祐一はそう言って重箱の蓋を開け、玉子焼きを取ろうとした。
が、重箱はもう祐一の目の前に無かった。
「…佐祐理が来るまでダメ」
舞が口を開いた。
そして重箱もいつの間にか舞の目の前に移動している。
「その台詞って俺が玉子焼き取ろうとしたからじゃないだろうな?」
「……」
祐一の問いに舞は無言で返した。
普段あまり顔に出さない舞だが、少し頬が赤く染まっている。
この表情はどう見たって肯定の意と受け取っていいだろう。
祐一は舞の表情を見て尚更、玉子焼きが欲しくなった。
そして舞の目の前にある重箱に再び手を掛けようとした。
が、祐一の重箱に対する攻撃(?)は舞によって阻止された。
埒があかないと思った祐一は作戦@を決行した。
「あ、窓の下をゴリラさんが歩いてる」
舞の視線が窓の下に移ったと同時に祐一は、隙あり、と叫び重箱を手にした。
叫んだが為、舞の反応も速く、チョップが祐一の後頭部に炸裂した。
その衝撃に宙を舞った重箱に、舞が目の前に居た祐一など気にせずにダイビングキャッチ。
するとどうなるか、舞が肘を床につけて重箱を支えるすぐ横には祐一の顔。
言うなれば舞の顔のすぐ下に祐一の顔。
二人の距離は三十cmと無かった。
「…祐一、ごめん」
「悪いのは俺だけどさ、次回からは手加減してくれると助かるよ」
祐一がそう言うと舞は首を横に振った。
「…その事じゃない」
舞の言葉が何を意味するのか、祐一は解からなかった。
それ故に舞の顔に視線を移す。
すると舞の両目は閉じられ、ゆっくりと祐一の顔に近づいていた。
「ま…舞、取り敢えず落ち着こう」
祐一の声が心なしか震えている。
この言葉に反応したのか、舞の目が開かれた。
「…騙した仕返し」
舞はそう話すとそのまま目を瞑り、顔を更に近づけていった。
そして二人の唇が後数センチで交わろうと言う所で…
「はぇ〜、舞って大胆〜」
弁当の製作者、倉田佐祐理の声が二人の下のほうから聞こえた。
この台詞を耳にした舞は再度目を開けた。
舞の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「…佐祐理、どうして待ってくれないの?」
舞が口を開いた。
普段あまり喋らない舞がここまで口数が多いと少し違和感を覚える。
まぁ、彼女を変えた張本人が彼女の目の前に居れば不自然でもないのだろうか…
暫しの沈黙の後、祐一が口を開けた。
「ほら、舞。 佐祐理さんも来た事だし…」
昼を食べ始めよう、そう続けようとしたとき、舞の涙が祐一の頬に落ちた。
「…祐一、私の事、嫌い?」
祐一と佐祐理の時が止まった。
二人からしてみればあの舞が泣くなんて事は有り得ないのだ。
「あははー。 私後ろ向いてるね?」
佐祐理が笑うしかないと言った感じで背を向けた。
祐一はその佐祐理を見て、俺の意見は聞かんのか、と嘆いている。
しかもその嘆きを耳にするのが佐祐理ではなく、舞なのだから…
一滴、二滴と祐一の頬に涙のしずくが落ちてくる。
「じょ…冗談だ。 舞の事は俺も好きだぞ」
舞の顔に笑みが浮かんだ。
二人の許可を得たことで舞の表情が緩んだのだろう。
「切り替え早いな」
「…だって、時間無い」
祐一は(だったら、早く昼を食べた方が良いんじゃないのか)と突っ込みたかった気持ちを抑えて目を瞑った。
それを言ったら余計昼を食べる時間が少なくなる、と思ったのだろう。
祐一自身にも昼を食べる時間が減る、と言うのは望ましくない。
そして二人の唇が…
重なる前に昼の終わりを告げるチャイムがなった。
「「「………」」」
三人の間の僅かな沈黙。
舞の目には涙。
舞の望み虚しく、各自の教室に戻る時間が来てしまった。
そして教室で机に顔を伏せ、泣いている舞の姿が学校中を驚かせたのは言うまでも無い。
後書き
あははー。
一日に二本仕上げる事になるとは…
舞には可哀想な事しちゃいましたし。
それにしても最初の二文、全然関係なくなったような気がするし!
いや、あながち関係ないとは…
ま、取り敢えずPalの2作目です〜
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