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〜ショートギャグ3つ〜
その1
「お代わり!!」
爽やかな、気持ちのいい声がここ、水瀬家に響いた。
時は夕飯時のゴールデン。
爽やかな声は、爽やかに皿をさしだし、それに応えて暖かい笑顔が受け取った皿にまた頼まれたお代わりを入れている。
また…。
そう、お代わりはこれに始まったことではない。
実際に言うなら既に5回目と言ったところか。
再び手渡された皿を見て笑顔を見せると、テーブルに置いてある1リットルの紙パックから飲み物をコップへ注ぐ。
…コップの色は薄い赤色。
そして、手にとったコップの飲み物を一気に喉に流し込んでいく。
ぷはーっ! と声を上げ、コップをテーブルに置く。
すると今度は皿を左手に持ち、お代わりを食べにかかる。
温かい笑顔は変わらずに、やさしくその様子を見続ける。
――お茶碗たっぷりの紅生姜に、紅生姜をかけて食べるの。飲み物は紅生姜の絞り汁――
…残しちゃだめだからね。
その2
「んー! 動かないでくださいよぉ〜」
「いや、無理だって! 大体俺たち人間は息するだけでも横隔膜が動くし、血液が流れている限り体は微小ながら振動していましてペラペラぺ〜ラペラペラペラ…」
季節は冬。
雪は降ってはいないが降り積もった後はある。
前日に降り積もった物なのだが、かなりの雪が積もっている。
…だからと言って道行く人々がおもむろに雪を集めて10mの雪だるまを作ったり、血のシロップを垂らして「イチゴカキ氷〜♪」などとはしゃぐこともない。
そんな中、公園に2人の男女の姿が。
男の方はベンチに座って何か意味深なポーズをとっている。
具体的に言うなら両腕を背中で交差させ、そこから腰に手を当て、脚は右はできる限り上げようとして中途半端に上がり、左は寒いためかちょろちょろと動き回っている。
対して女――むしろ少女――の方は手にスケッチブックを持ち、真剣な顔で意味深な男をスケッチしている。
「…別にそういうことを言っているわけではないです」
頬をぷくっと膨らめて文句をいう少女。
普段なら可愛いいと思われるその表情も、今の彼にとっては自分がいっぱいいっぱいのために何も感じることはない。
…特に右足。
「できましたっ!!」
澄み切っているわけではないが、見ると綺麗な空に少女の声が響いた。
「おぉ、どうだ??」
苦しみから開放された男は顔の筋肉を緩め、少女に向かってとてとてと歩いていく。
そして笑顔の少女からスケッチブックを受け取り、眺める。
…
ちらちらとスケッチブックと少女の顔を見合わせる男。
「上手い…」
ぽつんと呟く。
「…そう。やっぱりダメね」
「いや、あれは絶対真似できねぇって」
―――で、楽しい? 北川君――
―――…さあ?――
――――祐一&栞ごっこ――――
その3
「おい、牛丼!!」
「…祐一酷い。私は牛丼じゃない…」
「うぉ! 違うって。ほら、テレビの話だよ。今BSEの問題で牛問屋がピンチだろ?」
BSE。いわゆるボクたちスモールエミリーと言うやつか。
そう言うと舞は顔を赤らめ、「恥ずかしい…」と呟く。
そんな舞の姿を見て祐一は思う。
舞も普通の女の子になったんだと。
「祐一」
「ん? 何だ舞」
きりっとした目で、何かを決心しているような表情で言ってくる舞。
「…今ならまだ間に合う。牛丼屋さんに行く」
「お、いつになくやる気じゃん、舞」
気合いの入った舞の声を聞き、祐一も嬉しそうな顔を見せる。
―――よし、行こう―――
「特盛り二つ!!!」
「すみません、特盛りはもう終わっているんです…」
―――なっ! なんだと!?―――
「それは困る!!」
と、突然牛丼屋の中に大声が!
一体誰だ!? そう思い祐一が視線を移すと、そこには店員の胸倉を掴んで大声を上げている舞の姿が。
「こっ、困ると言われましても…!」
「特盛りは美学! 特盛りねぎだくつゆだく玉! こそが牛丼を食べる者の掟!!」
―あれやこれやと店内で怒鳴りまくる舞。
――舞は本当に普通の女の子になった――
「私は牛丼を極める者だから…」
――じゃあ自分で作るか?――
「…ぽんぽこタヌキさん…」
おわり
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