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第一話――始まりの駅
一人、電車に乗っている。
文字通り一人で、何故か乗客はわたし以外だれもいない。
――――――ガタン、ガタン―――――――
―――――ガタン―――ガタン―――――
列車が線路を走る音。
そして、その列車の中にいるわたしに聞こえてくる音。
列車の中から外をみる。
見慣れた風景とは違って、初めて見るような、どこかで見たような風景。
小さい景色が大きくなって、また小さくなっていく。
ただ、空の景色は急ぐことなくゆっくりと雲を泳がせている。
何故わたしがそんな風景を見ているかというと、今わたしは7年ぶりに従姉妹の家に向かっているからだ。
わたしの両親は仕事で海外に行くことになって、本当はわたしも一緒に行かないといけなかった。
けど、わたしがそれを本気で嫌がって騒ぎたてたせいで、わたしだけお母さんの妹、水瀬秋子さんの家へと居候させてもらうことになったんだ。
――電車に揺られ続けてもう4時間以上になる。
「ふぁぁ…」
小さく欠伸。
流石にちょっと疲れてきた。
大きい荷物はお母さんが送ってくれたみたいだから、すぐ必要なものだけを詰めたリュックサックを膝の上にのせてある。
―ぎゅ―
わたしはそのリュックを抱きしめ、ゆっくりと目を閉じた…。
―――――ガタン―――ガタン―――――
「…」
――ぬいぐるみのほうが気持ちいい――
ぱちっと目を開けて、リュックのファスナーをジーーーっと開けていく。
そしてリュックから見えてくるぬいぐるみの足を発見。
ピンク色でちっちゃい足。
ファスナーを全開まで開けるとピンク色のカエルのぬいぐるみがその姿をあらわす。
「ぅ〜ん…ケロちゃん…」
リュックの中からこんにちは。
取り出したケロちゃんをギュッと抱きしめる。
「あ…」
ドサン!!
膝のリュックが落ちちゃったよ。
――まぁい……くないよね。
うとうとしながらリュックを拾って、膝の上に。
しっかりとのっかったのを確認する前にケロちゃんを抱いて目を閉じる。
――ドサン!!
―――あ。
………
……
…
「今度こそおやすみ」
しっかりと膝にのったリュックを確認して、ケロちゃんをギュッと抱いて目を閉じる。
…やっぱり気持ちい『―――ピンポーン―――終点、終点です。お荷物のお忘れ物のないように…』
「………」
――雪
―――雪が降っていた。
プシューーーー
「うわっ! 寒いっ!!」
そ…想像していた以上に寒いねこれは…。
もっと上着着てくればよかったよ。
「うぅ…時計時計…」
確か従姉妹との待ち合わせ時間は1時だったはず。
「うわっ! もう1時半だっ!!」
駅の時計をぱっと見てビックリ。
マズイ…待たせちゃってる…。
――急がなきゃ――
寒さをこらえながら、早足で駅のホームから階段を上がっていく。
7年ぶりの再開で遅刻しちゃうとかわたし馬鹿だよぉぉ…。
っていうか電車の馬鹿バカばかぁぁぁ!!
ちょっと涙目かもしれない…。
「うぅ、怒ってないかなぁ」
駅を出てから待ち合わせの『駅の正面のベンチ』へと駆け足で向かう。
たったったったっ…
丁度体が暖まるくらいのスピードで、疲れないように。
…っと、あそこのベンチかな?
たったったったっ…
本当に文字通り『駅の正面』にあったベンチを発見し、ちょっとスピードをあげて一気に駆け寄る。
…そして、ベンチに人が座っているのを確認。
後ろ姿で顔はよく確認できないけど、このベンチに座ってるとなると間違いはないよね?
んー、どうやって声かけようかな。
サクッ
ベンチに座ってる人の真後ろに立つ。
…後ろ振り返ってきてくれたらとてもありがたかったんだけどなぁ。
ドキドキ
ドキドキ
長くて綺麗な髪。
女の子だ。
よし、頑張れわたし。
いざ謝罪&再開の挨拶を…!!
「誰ですか〜? さっきから佐祐理の後ろに居る方は?」
…へ?
佐祐理!?
ひっ、人違い!!?
「殺気が全くなかったので気にしないでいたんですけど、佐祐理に何か用ですか?」
くるり。
ベンチの女の子が振り向く…と、長くて綺麗な髪がさらさらと肩を泳ぐ。
そして、にっこりとした優しい、そして可愛い顔が目に入る。
…って殺気!?
「あっ、あのっ! わたし人違いみたいでした!!」
とりあえず応えておく。
っていうかこんな可愛い顔からいきなり殺気とかいう単語がでてくるなんてかなりビックリだよ。
「あはは〜、そうでしたか。佐祐理と似てる方なんですか?」
んー…あ。
わたし髪の長さしか見てなかったよ。
「いえ、その…青色の長い髪の女の子で…似てるといわれれば似てないかもしれません」
…何で間違えたんだ、わたし。
「はぇ〜、そうなんですかぁ。青色の長い髪…もしかして水瀬名雪さんとかですかねぇ〜」
…え!?
「名雪しってるんですか!!?」
「あはは〜、本当に名雪さんだったんですか〜。知ってますよ」
朗らかな笑顔で、すこしビックリしたような表情を作って応える女の子。
…すごい名雪。
もしかして有名人?
「名雪さんの攻撃と魔法の両方を使った独自の戦闘スタイルは学園では有名ですからね〜」
「へー、そうなんですかぁ…って戦闘スタイル!!!?」
な…何だか話がまったくわからないのですが…!?
何、名雪…七年間合わないうちに女子プロレスとかに目覚めちゃったの…?
…っていうか今魔法とかいう単語でなかった!?
…と、ビックリしているわたしを見て、女の子…佐祐理さんだっけ? も目を丸くしてビックリしているみたい。
「はぇ〜、もしかしてお嬢ちゃんはここにくるの初めてなの?」
「…いえ、七年ぶりですが」
っていうかお嬢ちゃんて表現はものすごく年下に見られてるような気がして若干いただけないよ。
「あはは〜、じゃあ知らなくて当然でしたね〜。実はここ、7年前から他の地域とは交流を絶って独立した地域になってるんですよ〜」
「…へ? どういうことですか?」
あ…頭が壊れそう。
わたしはどこ? ここは誰?
…ってマズイ。
頭の回転がおかしくなってきてる…。
時間もいつのまにか2時になりそうだし…って!!!
「あはは〜、説明しま『すみません待ち合わせ時間1時間も遅れちゃってるんでもう行きます!!』ね〜」
ガバッと頭を下げてから急いで地面を蹴って駆け出す!
…どんどん再会が気まずくなっていっちゃうよぉ。
………
……
…
「あはは〜、変わった子でしたね。でも、確か名雪さんは3時までトレーニングとか言ってたような気がしましたけど…」
―――雪が降っていた。
「ぷぇ! 目に入ったぁ!」
ズルッ!!
べタン!!
…順に、わたしの目に雪が入って、視界がさえぎられている最中に地面に滑って、最後に顔から地面に転んだ音…って何冷静に分析してるんだよ。
「うぅ、冷たい…。痛い。わたしもうダメかもぉ」
4時間以上も電車に揺られてたどり着いたら不思議の国で名雪は魔法使いの女子プロレスラーで…。
っていうか結局さっきのベンチがちがかったってことは、わたしは北口と南口を間違える初歩的なミスをしていたんだね…。
冷たい。
早く立と。
滑らないようにしっかり地面を手で支えてゆっくり立ち上がる。
…鼻の頭がヒリヒリするよぅ。
はぁ、兎に角急がないと。
2、3回深呼吸してからまた足を進める。
きまずいレベル、現在70。
基準不明。
○
○
○
「ふぁいとっ! ふぁいとっ!」
グラウンドに響く元気な声。
「名雪、ちょっと! 速いって!」
と、もう一つあせっている声。
今、この地方で一つの学園、その名を『華音学園』のグラウンドにて、二人の少女が走っていた。
一人はピンピンしているが、もう一人は顔にあからさまな疲労が伺える。
「そ、そもそもっ! あたしはあんたとは違って体力命なわけじゃないんだからっ…!」
「ダメだよ香里〜、どんなことをするにもまずは体力が基礎なんだからね〜。基礎をしっかりやるって香里の口癖だよっ」
喋りながらも、グラウンドは走り続けて。
「そっ! それにしたっていきなりあんたと合わせられるわけないじゃなーーい!! あたしは魔法専門なんだから〜!!!」
と、香里と呼ばれている少女の前を走る少女、名雪からは、少しずつ香里の声が小さくなっていく。
「香里っ! 遅くてもいいからラスト4周!」
香里に声をかけると、自分のノルマは終わったらしくゆっくりとスピードを落とし歩き始める名雪。
…ちなみにこのグラウンド、かなり広く作られていて、1周が800Mくらいあったりする。
「死ぬわよっ!!」
…怒鳴って少し大きく聞こえる声。
対して名雪はにっこりと笑って、
「ふぁいとっ! だよ」
と言って両手でガッツポーズをつくっていたりする。
キーンコーンカーンコーン
と、2時を知らすチャイムが校庭に鳴り響いた。
「…あっ!」
その音を聞いて何か大切なことを思い出したらしい名雪は、思わず持っていた汗拭きタオルを地面にはらりと落とし…。
硬直。
そして………
「待ち合わせのこと忘れてたよ〜!!」
のんびりとした声で叫んだ。
「びっ! ビックリしたぁぁ!!」
ゆっくり走っていた香里は思い切りビクッ!! と飛び跳ねて、心臓に手を当てて大きく深呼吸をしていた。
『やっ、やっぱり名雪あたしを殺す気よ…』などと呟きながら。
「ごめんね香里! わたし1時に待ち合わせがあったんだよっ! すぐ行かなきゃ!」
普段は何をしてものんびりとしているように見える彼女が、珍しく見てわかるように動揺しながら急いでグラウンドを駆けていく。
香里はそんな名雪の姿をボーゼンとしながら見送っていた。
そして、すぐに名雪の姿が見えなくなると、再び言い渡されたノルマ、グラウンド4周を再会したのである。
…真面目なのだ。
「はぁ〜…わたしの馬鹿ぁ〜。7年ぶりに再会するっていうのに何で待ち合わせの時間忘れちゃってたんだろう」
トレーニングを終えた後も、全くスピードは変わらずにただ待ち合わせのベンチまでの道のりを走る名雪。
ちなみに慌てて出てきたために、服装はトレーニングしていた時と同じ、学校指定のジャージである。
「1時間も遅刻しちゃったから、怒ってるかも…」
のほほんとした声ではあるが、本人は結構気にしているつもりである。
雪で滑りやすい地面を走るのは慣れているらしく、グラウンドを走っているときとなんら違いはない。
「早くわたしが行ってあげないと、『ここ』は来るの初めてだろうし困ってるよきっと〜!」
と、結局こちらもきまずいレベルが順調に増えていっているのであった。
○
○
○
「…はぁ。もしかしてもうわたし置いて帰っちゃったのかなぁ…」
さっきとは反対の『駅の正面のベンチ』に来てみたけど、やっぱり名雪はいないみたい…。
うぅ、何か本気で泣けてきたよ…。
リュックは背中に背負ってて、両手にはケロちゃんを抱いてるわたし。
ぎゅっとケロちゃんを強く抱き、わたしは冷たいベンチに座り込んだ。
さっき豪快に転んじゃったせいで服は濡れてるし、ケロちゃんも少し冷たい。
…わたし、どうなっちゃうんだろう。
タッ…タッ…タッ…。
人の足音がする…。
タッタッタッタッ!!
わたしの方に…近づいてる?
ケロちゃんを抱く力を弱めて、顔を上げて正面を見る。
―――綺麗な雪が降っていた。
「…名雪」
「はぁ…はぁ…ゴメンね、ケロちゃん。遅刻しちゃって」
にこっと笑って、わたしの腕に抱かれるケロちゃんの冷たい頭をなでる名雪…。
ちなみにケロちゃんは、7年前に名雪の緑色のかえるのぬいぐるみ、けろぴーと一緒に買ったものなんだ。
…って!
「ちょっとまった名雪! わたしは!? わたしは無視なの!?」
「わっ、無視したつもりはないんだよ〜!」
慌てた様子で言ってくる名雪。
慌ててる名雪って珍しいよね。
「…っていうか今名雪遅刻って言ったね!?」
「う…悪気があったわけじゃないんだよ」
………
「なっ! なゆきぃぃぃぃ!!!」
「わぁぁ! ごめんってばぁ〜」
名雪のやわらかそうなほっぺをびよーーんと引っ張る。
…ほんとにやわらかいよ。
びよーんびよーんびよーん…
「…い、いたひお…」
あ。
やりすぎたかも。
っていうかわたしも遅刻だけど、名雪の方が遅刻だからこの際わたしの遅刻はチャラだよね…?
「で、改めて…名雪! 久しぶり!」
とりあえず外見上はわたしの知ってる名雪と変わってなかったから再開の挨拶。
「うん、7年ぶりだね、祐美」
と、名雪もわたしに返す。
ちなみに今頃だけどわたしの名前は相沢 祐美だよ。
「はっくちょん!! …うぅ、寒い…。名雪、とりあえず家に連れて行ってくれないかな?」
再会の喜びとか、それ以外にもここの地域が7年前からどう変わったのかとか、名雪が魔法使いで女子プロレスラーなのかとか聞きたいことが山ほどあったけど、とりあえず今はこの寒さをなんとかしたいから…。
「…うん、わかったよ。それにしても祐美は変わってないよね〜」
首をちょこっと下げて、わたしの足から顔までに視線をめぐらせて言う。
「…ぐぅっ! なっ、名雪…一応わたしそれ気にしてるんだから…」
…ちなみに何が変わってないかと言うと、身長とか…。
所詮わたしは今でも…高校二年生で142CMだよ…。
名雪みたいにスタイルもよくないよ…。
「あ、あははっ、ごめんね祐美。さ、さて! それじゃあわたしの家まで案内するからついてきてね」
漫画流だとたら〜んと顔に汗でもかいてるような雰囲気でぱっと後ろを向いて、てくてくと歩きだす。
…まぁ名雪の場合は完全に悪気はないだろうからいいけどね。
あ、歩き出したと思ったら急に走り出したよ。
「…って名雪速いっ!!」
言うと、走るモーションの1コマでピタリと止まって、首だけで振り返り、さらにちょこんと首をかしげる名雪。
なかなかナイスなバランス感覚…じゃなくって!
「なんでいきなり走るのさ!?」
とりあえず名雪に追いつくために走りながら訊く。
…すると名雪はくるりと体ごとわたしに振り返り、ぐっ! と両手でガッツポーズをつくりながら口を開く。
「ふぁいとっだよ!」
べちっ!!!
…答えになってないよ。
っていうかまた転んだよわたし。
「わっ、祐美〜!」
呑気な名雪の声が、わたしの耳に響いた…。
雪道嫌い…。
………
……
…
「大丈夫? 祐美ぃ〜」
「…な、なんとか。わたしまだ歩けるよ…」
ゴメンねケロちゃん。
もうビショビショだよね…。
――ゆらゆらと、ゆっくり降り続ける雪の景色のなかで、楽しそうにわたしの隣で道を歩く名雪。
そして、その名雪を少し見上げながら歩くわたし。
冷たい服、ケロちゃん。
わたしと名雪の7年ぶりの再会は、わたしにとっては嬉しくもあり、ケロちゃんやわたしの服にとっては災難だったと思う。
「はっくちょん!!」
「祐美、ホントに大丈夫なの〜?」
ゴメン名雪、わたし明日風引くかも…。
――ゆらゆらと舞い落ちる雪の中で…
ゆっくり、ただゆっくりと、始まりの駅は雪景色の中で色あせていく。
まるではじめからその存在がなかったかのように。
ホーム、改札口…。
すべてのものが、ただ祐美を受け入れるためだけにその形を作っていたかのように。
確かにあるように見えた物たちが、完全なる無へと変わる時。
その時、独立したこの地域は、すべての始まりを示すストップウォッチを押すのである。
後書き
氷上です。
ってなわけで(?)はじめましたw
実はPalと一緒に連載開始しようってなわけで仕組まれたかのごとく同時にUPしたのでありますw
あ、でも俺の奴はTSFじゃないっすね(汗w
主人公は相沢 祐美、身長142cm、スタイル悪しのロリキャラ(??)です。
完全にオリキャラっぽいかもww
…とりあえず祐一が最初から女ってな感じで読んでくださいなww
↓祐美とケロちゃん
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