無料-
出会い-
花-
キャッシング
はるかぜよ、りんっ! と吹け! 第一回
東の空が青く染まり始めた頃、町の中を音が一定のリズムで奏で始めた。
その音はまるで音楽を演奏しているかの様に、眠りに就いている人々を心地よくさせている。
音源となっているのはごく普通の一軒家、演奏しているのは黒い長髪をなびかせている少女だ。
彼女が足を挙げるたびに、彼女の前にある木がそれに答え、音を奏でている。
本来ならば木に悲鳴を上げさせる打ち込みであるが、彼女の行動にこの木はじっとこらえている。
じっとじっと、ただ彼女と、家族と、この家を見守るように…
はるかぜよ、りんっ! と吹け!
「し…しまったー!!」
先程のキリッとし、打ち込みを行っていた少女とは思えないほど慌てた表情を作り、彼女の家へと飛び込んでいった。
そして、少女は家に飛び込むや否や、二階へと駆け上がった。
「春風、すまなかった、起きてくれ!!」
彼女はそう叫び、激しい音を立て、ドアを開けた。
ドアには「はるかの部屋」と書かれたネームプレートが揺らいでいた。
その部屋の端にはベッドの中で気持ち良さそうに少女が眠りに就いている。
少女は髪を肩辺りまで垂らし、一目で少女と分かるほど、美しい顔立ちをしていた。
この少女の名前ははるか、此花春風である。
「ほら、春風、起きてくれ!!」
春風の姉である少女、打ち込みを行っていた少女、此花凛が美しい黒髪をなびかせ春風の体を揺すっていた。
「う…ん、お姉ちゃん」
春風はそう呟き、姉の手をたぐり寄せ、その顔を引き寄せた。
「わっきゃあ、い…いくら姉弟とは言えど、私は女、お前は男、これ以上はまずいっ!! じゃなくて、何を言ってるんだ私は!! とりあえず…さっさと起きんかー!!」
訂正、春風は男、凛の弟だった。
そして、その春風の朝は凛の鉄拳と共に明けていった。
第二回
「う…うぅ…お姉ちゃん、痛いよ…」
赤くなった鼻の頭を両手で押さえながら、少し潤んだ瞳で弱弱しく言う春風。
まだ多少の眠気が残っているのか、少しボーっとした表情をしているが。
その容姿は、触り心地がよさそうな綺麗でサラサラとしている髪の毛、二重目蓋のパッチリとした瞳、白くて綺麗な肌など、どこをとっても女の子…それもかなり可愛い顔をしていた。
また声も高く、透き通るような、可愛い声をしていた。
…春風本人はそんな自分の顔や声に対して少しコンプレックスをもっているようだが。
「うっ…いや、そのっ…ごめん」
わざわざ起こしてあげたのだから、感謝されることはあっても謝ることなどはないのだが…。あまりにも可愛い女の子オーラを出している(春風にそのつもりはなくても)春風の反応に思わず謝ってしまった凛であった…。
…が、そんな凛の声が聞こえているのかいないのか、春風は突然ビクッ! と肩を上げ、視線を右へ左へとめぐらせる。
―ようやく完全に目を覚ましたか…
凛はそう思ったが、同時に今度は春風が何をやっているのかが気になった。
きょろきょろしている春風を見ていると…
「…あれ!? オレのなるとは!?」
と、突然ぽかんとした表情で呟く春風。
―は? なると…?
その突然の素っ頓狂な発言に凛もぽかんとした表情を作る。
…が、その後すぐに春風の思考がわかり、ため息と共にがっくりと肩を下ろした。
つまり、春風は夢の中でなるとを食べる夢を見ていて、まだ夢の世界と現実の世界が一致していないのだ…。
―それにしても何でなると…。と言うことは、さっき春風は私をなるとと思って食べようとしていたのか…。
思わずもう一度ため息が出てしまう凛であった…。
「…あっ、そうだ春風っ! なるとはいいとしてっ!」
はっ! と先ほどまでのあわただしさを取り戻した口調で言う凛。
「へ? どうしたのお姉ちゃん」
対して、ゆったりとした表情で、首を傾げながら春風。
「…打込みに集中しすぎて、時間見てなかった! 急がないと遅刻するかもしれない!」
…お互いの目を見たままピシッと固まりあう凛、春風。
……
「うわ〜! 急がなきゃーーー!!」
そして、春風のその声を合図にして、凛、春風の姉弟はドタバタと支度をはじめていくのであった…。
ちなみに、凛は高校二年生。春風は高校一年生で、丁度今日が4月の始業式の日だった…。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんは急いでシャワー浴びてきて! その間にオレが飯作っておくからっ!!」
と、春風は言う口の下からベッドを飛び降り、部屋から飛び出てそのまま走るように階段を降りていった。
…ちなみに朝打込みをしている凛は、打込み後に必ずシャワーを浴びていくのが習慣だったのだが、こんな急いでいる日にもそれをやっていいという春風は、ある意味では慌てているにもかかわらず律儀だった…。
どちらにせよ、実はご飯の支度というものを凛はとことん苦手としているので、手伝うと逆に足手まといになってしまう。
(春風もそのために朝は凛にはシャワーを勧めている)
凛もそれは自分でわかっていることなので、「春風、ごめんっ!」と苦笑しながら言うと、こちらも急いで部屋を出て、シャワールームへと走るように向かっていった。
…綺麗な黒髪が、そこにある空気すらなびかせるようにして流れていった。
第三回
キッチンに包丁がまな板を叩く音が一定のリズムで流れている。
そのリズムに加え、春風の鼻歌もその風に乗ってきた。
「おい、春風、何をしている?」
しかし、その心地よいミュージックは風呂から上がったばかりの凛によって遮られた。
「お姉ちゃん、相変わらず早風呂だな」
後ろから声を掛けられた春風だが、振り向かず、姉に言葉を返した。
それ故に、彼の姉がどんな形相で彼に話し掛けたか気付かなかった。
「バカ者ー!! 時間が無いと言っているのに何をのらりくらりとやっとるかー!!」
凛はそう叫び、春風から包丁を奪い取った。
「こんな物はだな…せいっ!!」
彼女が気合を入れ、包丁を縦横に振ると、豆腐が綺麗な四角に刻み込まれた。
そして彼女がその豆腐を掴み、先程春風が作っていた味噌のだしに入れようとした時、事は起きた。
そう、素手で鷲掴みにした為、綺麗に切られていた豆腐がぐしゃぐしゃになってしまったのだ。
「お姉ちゃんのアホー!! 何で豆腐をそのまま素手でガシッと掴むんだよ!?」
「い…今のは豆腐がやわなのがいけないんだ。大体お前だってのんびりしすぎだぞ!?」
「な!? よりによって逆ギレかよ!? ってそれより朝ご飯どうするんだよ!?」
「知るかっ!! 他に何か作ってなかったのか!?」
「作ってないよ!! あるのはご飯だけ…って何? その目は?」
凛の目が炊飯器に注がれているのを見た春風が尋ねた。
その問いを耳にした凛は台所に飾られている時計を見た。
時刻は八時五分を指している。
因みに学校は八時二十五分に始まり、彼女達の家から学校まで走って七分は掛かる。
その事を考慮に入れた凛は最後の手段だ、と言わんばかりに口を開いた。
「良し、握り飯でいくぞ」
「やっぱりー!! お姉ちゃんのせいだぁ!! お姉ちゃんが成長盛りのオレの飯を減らして背を小っちゃくしてるんだぁ!!」
「うるさい!! 私は嫌って言うほど自分の背の高さを毛嫌いしてるんだぞ!?」
そう…
この二人、此花凛と此花春風はそれぞれの背の高さを嫌っていた。
此花凛は女子でありながら172センチと言う長身。
かたや此花春風は男子でありながら147センチという小ささを誇る。
そしてこの二人の親である父母の二人は仕事に終われる日々を送っており、家に居る事は滅多に無いため、彼らはこの言いようの無い怒りを互いにぶつけ合っているのである。
しかし今の彼らにとってこれ以上に無情な物は時間であった。
時計の針は既に八時十五分を指していた。
「だぁー!! お前が私のせいだ等と言うから握り飯すら食えなくなってしまったではないか!!」
「けどそれはお姉ちゃんにも言える事じゃないかぁ!!」
「とりあえずさっさと家を出るぞ!! 始業式から遅刻はしたくはないだろう!?」
二人は朝ご飯も口にせず、急いで身支度を整え、家を後にした。
二人の支離滅裂な学校生活が今始まる。
第四回
制服に身を包んだ凛、春風の姿は、稽古着、寝間着を着ていた時よりも更に人の目を惹きつけるものになっていた。
凛の場合、制服に包まれた体ではありながらも、すぐにそのプロポーションのよさが伺えた。
スカートから伸びる長くスラッとした足、そして、そのスカートのあたりまで綺麗に流れている髪の毛。
また、凛自身のキリッとしていて綺麗な雰囲気に反するような可愛い制服が絶妙にマッチし、綺麗さの中に、高校生二年生という少しだけ幼い可愛さを残しているような、そんな印象を与えた。
春風の場合、周りから見ると小さい身長の可愛い女の子が、少し大きめの男の制服を着ているというある意味強烈に可愛い外観だった。
そんな二人が一緒に外にいたら嫌でも人目を惹く。
…今は別の理由も含まれていたりするが…。
「遅刻する〜!!」
「急げ春風!」
晴れた道に、可愛らしい声と綺麗な声が響く。
此花家から学校まで、走って約7分の道のりを、全速力で走る二人の姿があった。
途中、擦れ違う通勤途中のサラリーマンや、他校の自転車に乗った高校生たちが二人の姿を見ては思わず足を止め、振り返っていたことには当然気付いてはいないが。
「あぁ〜、一年生の始業式から遅刻とか嫌だよ〜!!」
「嫌ならひたすら走れ! このままのスピードで行けばギリギリ間に合う!」
と、走りながら器用に会話を交わしたりもしている。
そして、最後の曲がり角を曲がり、あとは直線を走りきるだけ。
二人の目の前には、ハッキリと校門が確認できた。
「ギリギリ…!」
「間に合ったかーー!!」
全速力を保ったまま、そのまま二人は校門を駆け抜けた。
キーンコーンカーンコーン…
と、同時に5分前の予鈴が鳴る。まさにギリギリ。
「はぁ…はぁ…間に合った…」
「いや、まだ校門だぞ春風。ここから五分は担任との勝負だ! じゃ、私は自分のクラスに行くから、春風もちゃんと自分のクラスに行くんだぞ!」
「わかってるよ、お姉ちゃん」
言葉を交わして、二人はそれぞれ自分の教室へと向かっていった。
…ちなみにこの学校、生徒昇降口からは3年の教室が一番近く、その後二年、一年の教室があると言った感じになっている。
そのために、予鈴から本鈴までの五分間はそれほど余裕がない…と言うよりはかなり厳しい時間だったりもする。
本当に、始業式初っ端から大忙しだ…
…と言うには、それほど運命というものは甘くはなかった。
「此花!」
…突然自分の背後から名前を呼ばれ、ピタリと凛は立ち止まり、後ろを振り返った。
すると…そこには、引きつった表情をした、黒髪の中に少しの白髪を生やしている50代くらいの男性教師が立っていた…。
「あ、…何ですか?」
掛けられた声に対して、『時間がない! 早くしてくれーー! むしろ、用件なら後にしてくれー!』といったような表情で答える凛。
ちなみに凛は、その容姿や人望などから、学校中の生徒、先生の殆どに名前が知られていた。
「おっ、お前、自分の足元気付いてないのか…?」
「え…足元?」
そう言われ、一旦ぽけっとした表情になり、その後すぐに言われたとおり、自分の足元へと視線をおくる。
すると…凛の足には、まだハッキリと外で履いていた『靴』が履かれていた…。
「あぁーーー!! しまったぁーーー!!」
あまりに急いでいたために、靴から上履きに履き替える、その動作を飛ばしてしまったのだ。
大慌てて靴を脱ぎ、下駄箱へと向かって走り出す凛。
「あぁー、待て此花。今から下駄箱まで行ったら遅刻するだろう。とりあえず靴を持ったまま教室まで行って、HRが終わってから上履きを取にくればいいだろう?」
「…スミマセン、先生」
体を教室の方へと向きなおし、ペコリと一礼。
「ははは、まあ後でしっかり廊下を雑巾がけしておけよ」
「はいっ、それじゃ、急ぎます!」
…キーンカーンコーン…
「あ”」
「急げ此花、チャイムが鳴り終わるまでが勝負だ!」
苦笑いしている先生が言うと同時に、凛は高速で走り出した!
そして…
カーンコ…『ガラララララ!!!』…ン
本当にギリギリ。一秒でも遅かったら遅刻していたくらいに、教室に滑り込むことに成功した凛だった。
「はぁ…、はぁ…」
「此花さん、ギリギリセーフね」
ふぅ、と一回息を吐き、出席簿に丸をつける、優しそうな感じの担任の女先生。
その声を聞くと同時に、凛は小さく「よかったぁー…」と呟き、自分の席へと歩いていった。
一方、春風はと言うと。
ガラララララッ!!
「間に合ったーーー!!」
と、無事教室のドアを開けたのだが…
「ギリギリセーフか…って…ん…あれ? この…はな…はるか…君?」
教室に入った春風と、出席簿とを見比べながら、不思議そうな顔で春風のクラス担任と思われる先生が聞いてきた。
「え…はい、そうですけど」
そんな表情をしている担任に対して、春風も不思議そうな表情で答える。
…と同時に、自分がクラスメイトから異常なほどに注目されていることに気付く。
またその視線は、自分が声を出した時により強く感じるようになった。
「え、えーーーっと?」
不思議そうな顔をしている担任に、じーっと自分を見つめるクラスメイトたち。
ただ遅刻ギリギリだっただけで、これほどに注目されるものか。
何が起こっているのかさっぱりわからずに、明らかに困ったという表情に変わる春風。
そんな春風に対して、ごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと口を開く担任。
「春風…君? 君は…女子、だったの?」
『あー、成る程、皆オレが女子だってことでこんなにザワザワしてたってこと―――』
担任の質問に、ようやく担任が不思議そうな顔をしていた理由がわかった春風は、納得したように…
「ってはぁ!!? ちょっと、オレが女子なわけないじゃないですかっ!!」
…リアクションできるはずがなかった。
そしてこの春風の反応に対して、担任は頭に手を当てて、くらりと倒れそうになるところを何とかもう片方の手で教卓とのバランスを保ったが、その表情は驚きただひとつだった。
クラスメイトに視線をめぐらせても、ぽかんとしている表情や、驚いている表情などで、春風もぽかーんとしてしまう。
今の春風にハッキリわかることといえば、自分が今日からここの一年生であることくらいだった。
凛、春風。
どちらにしても、始業式の朝は本当に大忙しだった。
第五回
落ち着きを取り戻したクラスの中で春風は指定された席に腰を下ろしていた。
彼の席は窓側から二列目の一番後ろの席だった。
何故彼が自分の席に腰を下ろしているのかと言うと、始業式の前にショートホームルームがある為である。
そして春風がSHR中、先生の話に耳を傾けていた所、前の席から彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
春風が視線を先生から前の席へ移すと、黒い髪を背中辺りに伸ばした少女が振り向いていた。
「こ、此花くん、で良いんだよね? 私は北里このか、どうして入学式の時居なかったの?」
「初めての挨拶は『初めまして』だろ?」
春風の返答に前の席の少女、北里このかは「はぅ」と声を洩らし、目に涙を浮かべた。
「そんなに邪険に扱わないでよ…」
「悪い、冗談だ…で、入学式のときに居なかった理由だよな」
このかは首を縦に振り、先程とは打って変わって笑顔で頷いた。
だが、春風はその表情とは反対の、深刻そうな顔をして口を開いた。
「二度と会えない両親の…見送りだ…」
再度このかの目に涙が浮かび始めた。
「はぅ…ごめんなさい…」
その表情を確認した春風は軽く吹き出した。
「え!? え? え!?」
「お前、面白いなー」
この時、初めてからかわれていると理解したこのかは怒りを顕わにした。
最も彼女の顔は美人と言うより可愛い部類に入るので、怒っても大したプレッシャーは春風に伝わらなかった。
「もー!! 此花くん、からかわないで…」
このかが春風に言い返そうとした時、彼女の背中がトントン、と叩かれた。
彼女が振り向くと、そこには怒りの表情を浮かべた担任が立っていた。
「初日早々、ここまで喋っている人間も珍しいな…」
「はぅ〜、ごめんなさいぃ〜」
三度、目に涙を浮かべる事となったこのかに対し、春風は声を上げて笑い始めた。
「此花春風、お前も同罪だぞ…」
「え!?」
「二人して始業式の間、この教室で反省していろー!!」
第六回
「始業式の朝から大変だったみたいだね?」
自分の席に着いた凛に、隣の席の女の子が声をかける。
対して凛は、くるりとそちらに顔を向け、眉を八の字にしてこくりと頷く。
「本当に大変だったんだぞ…。美雨、代わってくれる…?」
凛に声をかけた、彼女の名前は片瀬美雨(かたせ みう)。
凛とは違って小柄―154cmくらいの身長で、髪の毛はショートカット。いかにも元気っ娘といった感じの女の子である。
「ははっ、無理だよ。アレでしょ、今日から弟ちゃんここの一年生なんだよね?」
「ああ。そうなんだー…。で、弟のせいで遅刻ギリギリだったってこと」
「成る程ねんっ。凛がこんな時間に登校って珍しいもんねぇ。凛の弟ってどんな子なんだろー…。あ、それはそうと凛。此花春風ちゃんって知ってる?」
と、一気に喋ったあと、急に笑顔になって聞いてくる美雨に対して、凛は不思議そうな表情に代わり…
「そいつがどうかしたのか?」
一瞬ピクリと眉を動かし、何か悪い噂だと嫌なので遠まわしに聞く。
ちなみに凛は、美雨に春風の名前は教えてはいない。
―春風め、もしや早速なにかやらかしたのかー!?
そう思っていると…
「なんかね、その子が凄く可愛い子で、2、3年生の間で噂になってるんだって!」
「…はぁ?」
予想外の美雨の発言に、思わずぽかんとしてしまう凛。
…っていうか何で春風の名前が知られてるんだ?
春風が学校に来たのなんて今日が初めて…
…じゃなかった。
確か入学式の時―――
「あ”あ”−−−−−−!!!!」
丁度お昼時の時間、此花家に春風の絶叫が響いた。
「ん…? どうしたんだ?」
春休み中の凛は、いつも通り庭の木で打込みをしていたが、一旦足を止めて二階にある春風の部屋を見つめる。
すると、春風の部屋から急にドタバタとする音が聞こえてきて、そうかと思うとガチャン! と玄関が開き、そこには私服姿の春風が、口に焼いていない食パンを咥えて立っていた。
「どうしたんだ、春風」
首を傾げながら聞く凛に対して、春風は肩をぷるぷると震わせながら口を開く。
「どうしたもこうしたもないよっ! 昨日、今日が入学式だから起こしてねって言ったじゃないかぁーー!」
と、その時咥えていた食パンが口元から落ち、慌てて両手でキャッチする。
「…は? そんなこと言ってたか? それ以前に、私は昨日まで旅行に行ってたし、しかも帰ってきたのは夜中の11時くらいで、その時はもう春風は寝ていたと思うけど?」
と、凛が答えると、春風はぷくっと頬を膨らませて口を開く。
「そのあとトイレで起きて来た時にお姉ちゃんの部屋によって言ったよ! お姉ちゃん寝てたみたいだから起こそうかと思ったけど、起こして! っていったら『うん』って言ったし!」
「あ、あのなぁ春風! それはどー聞いても寝返りでたまたま声がでただけだろう!? それ以前に私は今日が入学式だなんて聞いてもなかったぞ!?」
ピクピクと形の良い眉を動かしながら答える凛。
全くもって理不尽だ。
凛が答えると、春風は「う”ぐっ…!」と声を漏らし、ガクリと肩を下ろす。
「ていうか春風。何で学校行くのに私服なんだよ」
「あっ! あ”−−−! 慌ててたからっ!」
「…むしろ春風、入学式の時間ってもうとっくに終わっちゃったんじゃないのか?」
「……」
はぅ、というような感じで項垂れる春風。
ちなみに私服の春風は、学校の制服を着ているときの『男装した女の子のような』外見ではなく、『ボーイッシュな女の子』という外見だった。
「もういいよ…。とりあえず通学路だけでも歩いてくるから…」
と力なく呟くと、再び食パンを口に咥え、とぼとぼと学校への通学路を歩いていくのであった。
「まったく…ホントにドジだな」
凛は、そんな春風の後姿を見つめながら、なんとなく春風らしいこの光景に、思わず微笑むのだった。
――
そうか、あの後学校で何かあったみたいだな。
と、春風が学校の人たちに知られていることについては納得した凛。
その凛の顔を見ると、美雨は続ける。
「何でも、学校の前に私服の可愛い女の子がいるっていうのをグラウンドで部活してた3年生が見つけたみたいなのね。それで、その人が聞いた話では、その子の名前が此花春風って名前で、今年からここの一年生ってことだったの」
「はは、可愛い、女の子…かぁ」
引きつったような笑顔で答える凛。
「で、その後グラウンド中の人たちが集まってきちゃって、大騒ぎだったんだってー。今日の朝とか、クラス中でその話題が持ちきりだったんだからっ! 二年連続、アイドル級美少女の入学! とかいってね?」
「そ、それはそれは…っていうか私は別に…」
そう、実は去年。
凛が入学するときにも、あとで聞いた話では相当上級生に騒がれていたらしいのだ。
そのせいで、入学したてからやたらと上級生に名前を知られていたし、毎日のように告白されたりだの、兎に角大変な生活をおくっていたのだ。
「いやぁー、凛は女のあたしから見ても綺麗だと思うわよ〜。ホント、羨ましいんだからぁ〜」
そう言って、美雨はぷにぷにと凛の頬をつつく。
「も、もぅ、あんまりからかうなよな?」
ぶんぶんと顔を振りながら言う。
「はいはい。わかったわよミス歩良共(ふらぐ)さんっ。それにしても…春風ちゃんねぇ。どんな子なのかあたしも楽しみ〜!」
「また去年の話を…」
少し赤くなって俯く凛。
ちなみにミス歩良共とは、去年、ここ歩良共高校(ふらぐこうこう)の文化祭で開かれた『美少女コンテスト』なるもので優勝したものにおくられる称号のことである。
いつの間にやら参加を決定されていた凛は、気がつくと優勝してしまっていたのだ。
「ふぅ…しかし…」
一回息をはき、顔を上げる。
…何だか楽しそうな顔をしている美雨の顔を見ていると、『此花春風は私の弟だ』などとはとても言えないような感じになってしまう凛であった。
―その頃、噂の可愛い女の子、もとい春風はというと…
「うぅ、何でオレまで教室待機にさせられないといけないんだよ…」
少し顔を俯かせながら、ジト目でこのかに視線をおくる。
するとこのかは、その視線から逃げるように顔を外に向ける。
「ほら、此花…君、桜が綺麗よ」
このかが言うように、確かに今、この始業式のシーズンの桜は見事だった。
暖かい春の風に吹かれて、綺麗に散っていく桜の花びら。
それはまるで、一つの劇であるかのような…そんな印象を与えた。
「話、逸らすなよなぁ〜。…っていうか、今の『君』の前の間は何だったんだよ」
「えぇ!? いや、なんでもないよっ! ただ…」
「ただ?」
そう言って春風が首を傾げると、このかはじーっ! と春風の顔を見つめる。
「此花君て、男の子に告白されたことがありそうだなーって思ったの」
「ぶっ!! ゲホゲホッ!! ゲホッ!」
と、突然のこのかのセリフに思わずむせってしまう春風。
…いや、これがただの空論であるならば、春風もここまでむせることはなかったのだが。
「はぅ、此花君、大丈夫?」
申し訳なさそうに言うと、右手で春風の背中をさするこのか。
対して春風は、すぅはぁ…すぅはぁ…と、ゆっくりと深呼吸する。
「き、北里さん…だっけ?」
呼吸がある程度落ち着いてくると、苦笑いしながら尋ねる春風。
「うん、このかでいいよ、此花君」
名前を呼ばれると、にっこりと笑いながら頷くこのか。
そのこのかに対して、春風はピクピクと眉を動かしている。
口元もひくひくしていたりする。
「わかったよ…。で、このか…」
「じゃあ、私も春風って呼んでいい?」
春風の声を聞いているのかいないのか、相変わらずにっこりとした笑顔でいうこのか。
『うっ、こ、こいつぅぅーーー!』
何だかさっきとはうって変わってこのかに流されていることに対して、若干癪に障る春風。
が、あまりにもマイペースなこのかを見て、思わず一回溜息をはき、「…わかったよ、春風でいいよ…」と小さく答える。
その答えを聞くと、このかは嬉しそうに頷き、「よろしくね、春風」と言った。
「で、このか」
「何、春風」
ようやくちゃんと聞いてくれた。
そう思って一旦ほっとする春風。
首をかしげているこのかに対して、春風は続けて口を開く。
「変なこと言わないでよ」
「へ? 変なこと?」
「その…男に…告白…とか」
「あ、ゴメンね春風。ただ、春風をはじめに見た時、何でこの子男の子の制服きてるんだろーって思って。…その、顔も可愛かったし…男の子に告白とかされたことないのかなーって」
申し訳なさそうにいうこのかの、そのセリフに対して「うぐっ!」と声をあげ、がっくりと項垂れる春風。
「あ、あのなぁ…このか。男に告白とか、洒落じゃないからオレには笑えないの!」
「え、それじゃあやっぱり!?」
右手を口元に当てながら、ちょっと驚いたような表情で言うこのか。
「うぅ…そうだよ…。何か町で買い物してたら、とか散歩してたら、とか…」
がくっ、と肩を下ろしながら、涙でもでているような雰囲気で言う春風。
ちなみにこの時の春風は、今自分が2、3年生の中で騒がれている『アイドル級美少女新入生』だということには気付いているわけがなかった…。
「あは、ゴメン春風、私もそれ聞いて納得しちゃった」
ぺろっ、と舌を出しながら、ちょっと意地悪そうな顔で言うこのか。
…どうやらこの北里このかという少女、初対面の相手と接するに時はおどおどした感じがあるが、少し話すとすぐに相手に慣れてしまうようだ。
「うわ、このか、結構酷いし…」
一方の春風は、自分は相手を振り回しているつもりでも、結局は相手に振り回されているのであった…。
「全く、お前ら二人とも、いつまでじっと教室待機しているつもりなんだ?」
と、急に教室のドアから担任の声が聞こえた。
「う?」
「ふぇ?」
その声に対して、顔をドアの方に向ける春風、このか。
ふたり揃ってぽかんとした表情をつくり、ドアの外にいる担任の顔を見つめる。
「始業式なのに教室待機とか、冗談に決まってるだろ〜? まさか二人揃って本気にするとは思わなかったぞ…」
と、見つめられた担任は、額からたらーんと汗でも流しているかのような雰囲気で、かつ呆れたような顔で二人に言う。
…その言葉を聞いた二人はお互いに顔をあわせ、そして一斉に口を開く。
『冗談には聞こえませんでしたよぉーーーー!!!!』
と。
えぐえぐっ、と、二人揃って瞳に涙を浮かべているような顔をしながら。
「あぁーー! すまなかったすまなかった! とりあえず謝るから、二人とも早く体育館行けよ〜」
子供をあやすような感じで両手をひらひらと振りながらいう担任。
「はぁ、いこ、春風」
「…うん」
うぅーー。と、うめき声を上げながら、春風とこのかはとぼとぼと廊下を歩いていった…。
第七回
春風とこのかは全校生徒より遅く体育館へ入ることとなった。
その為、全校生徒の目が、その二人へ…ほんの一瞬だが、注がれる事となった。
だが、その一瞬だけで、その遅れた人物が何者かを判断するには十分だった。
そして、誰かが呟いた。
「春が…来た…」
次の瞬間、漢共の雄叫びが上がった。
第八回
「な、なんだぁぁぁ!?」
春風とこのかが体育館に入った途端に一斉によせられる視線、そして急に上がる歓声。
「わかんないよっ…って春風?」
それに対して、春風は思わずこのかの背後に隠れる。腰を低くして、両手をこのかの背中に当てながら。
…身長が極端に小さい春風は、このかの後ろに隠れれば正面からは見えなくなってしまう。
ちなみに、このかとて身長が特別大きいわけではない。
身長は156、7pくらいである。
春風がこのかの背後に隠れたせいで、このかは寄せられる視線すべてを自分で受け止めざるをえない。
「はぅっ…」
顔を赤くして俯くこのか。
ちょっと遅刻しただけで、なんでこんなに注目されるのよぅー! と思いながら。
「春風、ちゃん…」
と、突然全校生徒の中から春風の名前を呼ぶ声がした。
そうかと思うと、次々に「春風ちゃん!」「春風ちゃん!」と声が上がっていく。
「オ…オレ?」
その声に対して、このかの背中からちらっと顔をのぞかせる春風。
すると、先ほどと同じように『うぉーーーー!!!!』と雄叫びが上がる。
「はぅ、何が、どうなってるの〜?」
春風と全校生徒に挟まれる形となったこのかは、目に涙を浮かべながら、キョロキョロと視線を全校生徒、春風に交互に向ける。
そうしていると、更に全校生徒の中から声が上がる。
「春風ちゃん、何で男の制服なの〜?」
「馬鹿、女子の制服着せるよりもこっちのが可愛いじゃねーか!」
「お前、隔たった趣味してんな…」
「春風ちゃん、ちっちゃいーー! お人形みたい!」
「だ…っ、男装ロリっ娘萌え〜!!」
「お、お前春風ちゃん誘拐するんじゃねーーぞ!?」
…などなど様々な声が。
ちなみに声は男子だけでなく、女子からも響いていた。
そんな声を受けて、春風は「ぐぅっ!」と項垂れる。
そして
「ねぇこのか…オレ、泣いていい!? 泣いていい!?」
と、既に瞳をうるうるとさせながら言う。
対してこのかは、頬を赤らめ、上目遣いで瞳をうるうるとさせながら言う春風の顔を見て、思わず全校生徒と同じく、「可愛い…」という反応をとってしまう。
「うっ、このかまでー! あんまりだぁーー!」
ついにえぐっ、えぐっ、と泣き出してしまう春風。
…その動作はまるで逆効果になるとも知らずに。
噂の美少女がぽろりと流す涙。
キラキラと輝く目元と、うるうるとしている綺麗な瞳。そして八の字眉。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
そんな春風の反応に、歓声は2倍以上にもなる。
―あの馬鹿っ!
そんな中で、2年生の位置に並んでいる凛は、頭を抱え込みたくなっていた。
―でもまあ、自業自得か。
と、急に心配そうな表情をやめ、そうかとおもうと逆に楽しそうな表情へ変わる。
私も去年の始業式から本当に大変だったんだ。
春風も苦労しろっ!
そんなことを思っていそうな表情。
「こらこらーー! 皆静かにせいっ!!」
あまりの騒がしさに一瞬ぽかんとさせられていた先生たちが、ようやく生徒たちを静めようと声を上げ始めた。
「そこの二人も、早く自分たちの場所に行きなさい!」
と、このかと春風にも声がかかる。
…全校生徒も、ようやく静かになり始めていた。
「春風、いこ?」
苦笑いしながら、視線の下でぷるぷるとしている春風に声をかけるこのか。
すると、春風はゆっくりと顔を上げ、その後視線を左右にめぐらせる。
そして、先程よりも視線を感じなくなったことを確認すると、ようやく「…うん」と頷いた。
第九回
始業式の挨拶が始まるや否や、美雨は凛に話し掛けた。
「ねぇねぇ、やっぱり春風ちゃん、可愛いかったね」
「男物の制服だったが?」
凛はいきなり春風の話題を振られたので、少しばかり邪険に扱った。
彼女は目立つ事を好んでいない。
好まないが為に、目立つ春風と知り合い、ましてや姉弟だと言う事を悟られたくなかった。
しかし、普段から乱暴な口調を多々使っているので、美雨にとっては何の効果も無かった。
「間違って着ちゃっただけだよ。あんな可愛い男の子いるはずないもん」
「そうか…」
「そうだよ。これで今年のミス歩良共は此花凛と此花春風の…あれ?」
「どうした?」
「このはな…?」
「先に言っておくが、私には春風と言う名の女顔をしていて、その姿がちょっとコンプレックスな弟なんていないぞ」
美雨は固まった。
それはもう、ピキーン、と言う効果音でも上げる様に…
因みに凛、彼女はもう嘘が下手だのと言うレベルではない。
元々、曲がった事が嫌いである彼女だが、それにしても、もう少しマシな言い方が出来るはずである。
「どうしたん…」
「えー!!?」
開会式の挨拶が終わると共に、美雨の悲鳴が館内に響いた。
無論、美雨が担任に始業式が終わった後、叱られたのは言うまでも無い。
第十回
始業式も無事終了(多騒ぎもあったが)し、生徒たちはそれぞれ自分のクラスへと帰っていった。
その後、各クラスでHRを行い、それだけで今日のところは下校ということになった。
「遅くなってごめーん!」
と、凛のいる教室―2年4組へと、すまなそうな声を上げながら美雨が入ってくる。
…始業式中に思いっきり声を張上げたせいで、先生にお説教されていたのだ。
もう今日は下校ということになっているので、クラスの中は10人くらいの生徒が残って、話をしたりしているだけだった。
…その残っている生徒のうち、3人の女の子が、その声に反応して美雨の方へと顔をやり、それぞれひらひらと手を振る。
「あの状態であんな大声だすからだ」
「美雨、大丈夫?」
「…先生に酷く叱られたみたいですね。その前の方が騒いでたと思いますけど…」
そして、それぞれの言葉で美雨を迎える。
一番はじめの声が凛。
ちょっと呆れたような顔をしている。
二番目の声が九可奈(いちじく かな)。
肩下少しまで髪の毛を伸ばしていて、左右の髪の一部を頭の後ろの方へ持っていって、それをリボンでとめている。
身長は155p前後。
可愛い感じの顔と雰囲気をしていて、凛とは反対な印象を与える。
最後に、三番目の声が小泉椛(こいずみ もみじ)。
おとなしそうな雰囲気ではあるが、髪は美雨と同じくらいの長さにしており、身長も160p前後。
女子の平均より少し高いくらいだ。
表情やおとなしそうな雰囲気から、あまり気が強そうではない印象を与える。
彼女らの反応に対して、美雨は「あははっ」と元気よく笑ってから、「心配無用っ!」と答え、右手でブイサインをつくった。
「んで、凛」
「ん? 何美雨」
つんつん、と肘で凛のお腹をつつきながら言う美雨。
「春風ちゃんて…アレホントなんだ?」
「う”…ま、まぁ…」
美雨の言葉に対して、急にマズそうな表情へと変わる凛。
「ん? 春風ちゃんて、あの一年生の?」
「その子がどうかしたんですか?」
可奈と椛は揃って不思議そうに首を傾げる。
その二人に対して、美雨はぱっと表情をいたずらをする子供のように変え、そして口を開く。
「実はね、その春風ちゃん…凛の弟ちゃんだったのだーーー!」
「えっ!?」
「そうなんですか!?」
「うん、そうらしいのよぉーー」
二人の反応に満足したかのように、うんうんと頷きながら言う美雨。
それに対して凛は、仕方ないといった表情で軽く息を吐いた。
一方の可奈と椛は、少しの間呆然としているような表情をしていたが、その後互いに目を合わせ、「確かに言われれば納得できるかも…」「そうですね」と頷きあっていた。
「でも…春風ちゃん、本当に男の子なのかな」
と、ぽつりと呟く可奈。
すると、美雨と椛は「はっ!」として互いに目を合わせた後、呟いた可奈と目を合わせる。
そうかと思うと今度は3人揃って凛の方へと顔を向ける。
まさに見事なコンビネーション…というか、以心伝心である。
凛はそんな3人の顔を、顔に「?」を浮かべながら見ているが。
『ねぇ凛』
3人の声が重なる。
「ん? どした?」
相変わらず顔には「?」を浮かべている凛が聞き返すと…
「何か事情があったら相談にのるよ?」
「うん、遠慮しないで相談してよ」
「わたしたち、出来ることなら力になりますよ」
と、それぞれ返す。
「…はぁ?」
ぽかんとした表情の凛。
…美雨、可奈、椛の3人の結論はこうだ。
『春風は本当は女だが、何かの事情で男として登校している』
「ま、そゆことだよ!」
そう言って凛の背中をポンッと軽くたたく美雨。
「ど…っ、どーいう『キーンコーンカーンコーン』…」
と、凛が言っている最中に、下校を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あ、それじゃあ、そろそろ教室出よ?」
はっとした表情で言う可奈。
「そうですね…これからどこか行きます?」
「そだねんっ、それじゃ商店街でもいっきますかー!」
椛に美雨が答える。
「凛も行こっ!」
そう言って凛の手をとる可奈。
「ん…ああ、それじゃ行こうか!」
―もう細かいことは気にしなくてもいいか。
そんなことを思っているように一回頭を軽く振った凛は、可奈の手を握り返し、前を歩く美雨と椛の隣へと、可奈と一緒に少し早足で歩いていった。
[PR]動画