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努力
あたしは努力している。
決して何にもしていないで学年主席なわけではない。
…でも、あたしにとってはそれは当たり前。
っていうか、だからこそ勉強にも努力できない人の気持ちがわからない。
勉強なんて、自分のために頑張ることじゃないの。
勉強しないと後悔するのって結局自分じゃない。
他の誰かが残念がったり後悔することなんてひとつもありはしない。
…ただ授業でやったことを家に帰ってから復習して、ちょろっと問題集を解くだけ。
いって見ればこんなに簡単なことなのに。
何もしないでボーっとしてるやつとか。
趣味が寝ることとか言ってるやつらってホントにどういう考えかたをしてるのかわからない。
――そんなあたしに、最近気になる人ができた――
季節は冬。
現地にいても寒いのは嫌いなあたしが一番嫌いな季節。
そんな季節に。
いつもふざけてるばっかりのクセに、いきなり真面目になってドキッとさせられたり。
…周りのやつみたいに、あたしが何もしないで頭が良いなんて思ってないし。
それに、あの笑顔を見ると、何だか疲れがとれるって言うか…安心する。
――一緒にいたいって思った――
いつだったかしら…無理矢理帰りに付いてこられた時があった。
相変わらずの楽しそうな顔で。
それでいて、何だかあたしのすべてを見抜いてしまいそうな瞳で。
手、つなごうって言われたけど、そんなの恥ずかしいからそれだけは断った。
別れる時に、何だか少し胸がズキッとした。
…もっと一緒にいたかったのかもしれない。
家に入るとお母さんに、――何か良いことあったの?――
そう聞かれた。
知らない間に、あたしは笑ってた。
――ちょっとだけ――
お母さんに、そう返した。
部屋に入ったら、机に座った。
頭の中には、その人のことがぐるぐる回ってた。
何を考えてるかわからない興味。
笑顔の優しさ。
…そして、別れた時の寂しさ。
あ…
あたし何考えてるんだろ…。
机に座ってたら、いつの間にか一時間も経ってた。
…復習しなきゃ。
頭を切り替えて、復習を始めた。
あたしは努力している…。
…努力している。
――次の日――
学校へ行こうとして玄関を開けると、玄関の前にあいつが立ってた。
――香里――
にっこり笑って。
玄関のまん前で。
氷点下の寒すぎる外で…。
寒そうな顔で。
…寒さ、それほど強くないくせに。
ぎゅ。
手を握られて。
――学校、一緒に行こう――
ホントに突然で。
あたしにとっては意味わかんないコトばっかりするやつで。
…でも
嫌いじゃないやつで…。
――わかったわよ――
あたしは、そいつの冷たい手をぎゅっと握り締めた。
――あ、雪――
あいつが言う。
顔をあげると、言った通りにちらちらと雪が降っていた。
嫌いな雪。
寒いから。
でも、あいつは楽しそうに。
――積もるといいな〜――
なんてはしゃいでいる。
本当に楽しそうに。
…幸せそうに。
何だか、楽しくなってきた。
あたしは負けず嫌いだ。
横にいるこいつがこんなに楽しそうなんだ。
あたしはこいつよりもっと楽しんでやる!!
「あははっ!」
笑ってる。
「はははっ!!」
何だかどうしようもなく楽しくって。
冷たい手が、暖かくて。
――雪が、白い宝石のように見えて――
握り合った手。
腕をぶんぶん振りながら、見慣れた新しい道を歩く。
あ。
冬ってこんなに綺麗だったんだ。
…こんなに、暖かかったんだ――。
寒くて暖かいこの道。
冷たくて、暖かいこの手。
楽しくて、綺麗なこの空。
あ。
あたし、冬好きだ。
――あたしは努力している――
他の人よりずっと努力している。
だって、こいつは全然普通の人とちがくって、ハラハラするから。
――えへへ〜♪ 楽しいね、香里!!――
――そうね、名雪――
親友とであった季節、冬。
あたしの大好きな季節。
それは、あたしが中学一年生の時だった――。
そして、今。
高校3年生のあたし。
名雪。
「――香里! ごめん! 遅くなっちゃったよ〜!!」
「…名雪、一時間の遅刻よ…?」
「わっ! そんなに!? わたしまだ30分くらいかと思ってたよ!」
「…はぁ。まぁいいわよ。じゃ、行きましょ!」
「…うん!」
――今日は妹の…栞の退院日だ――
歩きながら、手を繋ぎ。
…この道を歩く。
手を繋ぐ時。
あの時を時々思い出す。
冷たかった手を握り締めたあの時を。
声を出して笑ってしまったあの道を。
「香里…」
「ん? 何よ、名雪」
「よかった…ね♪」
「あ…うん」
時々見せる真面目な顔。
同姓から見ても、本当に綺麗だって思う。
あたしが惹かれたこの瞳。
この笑顔――。
――あたしは努力している――
もっと知りたいから。
この素晴らしい親友のことが知りたいから。
――ありがと
――え?
――んーん。何でもないわ。
晴れた空を、晴れた妹の元へ向かって――。
一歩、また一歩と。
あたしは歩いていく。
二人で、この道を…。
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